&Juliet – 「ロミオとジュリエット」のIfを描くミュージカル

2019年11月12日よりThe Shaftesbury Theatreで公演が始まった「&Juliet」を観劇してきました。

あらすじ

愛し合う2人の男女の間に立ちはだかる両家の対立関係、行き違いが生じて悲劇的な最後を迎えるロミオとジュリエット。

目覚めたジュリエットはロミオの後を追う…のですが、このウィリアム・シェイクスピアによる戯曲「ロミオとジュリエット」のオチがもし違うのであれば…?というミュージカルです。

物語は「ロミオとジュリエット」を書いたシェイクスピアと妻のアン・ハサウェイが羽ペンを持ち代わる代わる自分の意見を言いながら、ジュリエットが目覚めたところから新たなストーリーを書き上げていくスタイルで進みます。

曲は90年代~現代までのヒット曲を用いて、物語にうまく組み込んでまるでこのミュージカルのために書かれた曲なのかと錯覚を起こしそうになるほど!



そして原作は悲劇的な結末を迎えますが、このミュージカルのジュリエットをはじめ登場人物からは、結婚もジェンダーもライフスタイルも自由で自分で決めて自分の人生を歩んでいこうという、多様性を前面に押し出した力強いメッセージを感じました。

恋人の後を追うジュリエットの姿に純粋な愛を見出すのも良いけれど、つらい状況から自分の足で立ち上がって自分の人生のために歩みだすジュリエットからは、現代社会で悩みながら生きている人にとって大きなヒントを得る事ができます。

中世を生きた女性から現代の人々へ向けた多様性の大切さ

原作のロミジュリが書かれた16世紀は、結婚が現代より非常に重い意味をもっていた時代。恋人を思って女性が恋人を追うというのは、悲しくとても美しい結末だったと思います。

ですが現代を生きる女性からすると「ロミオだけが男じゃないのになあ」と思う気持ちも持つ人も少なからずいるのではないでしょうか。私は実際に「ロミオとジュリエット」のストーリーを読んだ時に因習的に思えて何だかなあ…と、微妙にモヤモヤした気持ちになりました。

それだけ好きだったんだ、と純愛を表現するというのはドラマティックだけど、どこかで「恋愛だけで人生全部が終わっちゃうの?恋愛しかない人生なら、恋愛出来ない人はどうしたらいいの?」と少し飛躍して申し訳ないですが、そう疑問に思いました。

ミュージカルのはじめ声高らかに「ロミオとジュリエット」の結末を妻のアン・ハサウェイに発表するウィリアム・シェイクスピア。そこにアンが「その最後はちょっと…ねえジュリエットが生きていたら、で考えてみよう!」と提案し、ロミオを失い失意のどん底にあるジュリエットのシーンから物語が始まります。



物語の終盤になってアンが生きた時代、原作が生まれた時代の抑圧された彼女自身の悲しみが語られるシーンがあります。

これこそがアンがジュリエットに、人生で最低最悪の状況でも自分の足で立ち上がって、人の意見に依存せず、人生を謳歌する物語を授けたかった理由だったのかとわかった時は、全体的に派手で楽しくコメディタッチだったミュージカルそのものに、重みが生まれました。

私が疑問に思っていた「恋愛できない人はどうしたらいいのか」という問題に対する答え(「答え」という言葉が適切じゃないかもしれませんが)が、様々な環境におかれたキャラクター達によって丁寧に描かれていました。

深い悲しみの中、昔から支えてくれる侍女もいれば旅に出るといえば、一緒にいこうと言ってくれる友達がいて、新天地でまた誰かを好きになって…でもその人には人に言えない秘密があって…

と、最初は泣きわめいていたジュリエットが段々元気になっていく姿をみると、どんな絶望があっても自暴自棄になって自分の人生を棒に振るな、という励ましと自分の選択に責任を持て、他人の行動や意見や世間の目に流されるな、という前向きなメッセージ性を感じました。

多様性をうたうミュージカルがたくさん上演されるロンドン

劇中は女性の権利、自立、ジェンダーの自由、人生において何を目的とするかなど今現在世界的に焦点があたるテーマがたくさんでてきます。

今ロンドンで上演されている「Everybody’s talking about Jamie」や、以前ロンドンで上演されていた「CATS」「ヘアスプレー」などもそうですが、いつの世も多くのミュージカルが多様性やライフスタイルの自由について、観客にダンスと歌と演出で伝えてきました。

性別を問わず超える壁がでてきても立ち向かっていく強さ、ほしいものがあれば待つのではなく掴み取りにいく自発性、人のためだけではなく自分のために戦う志、というメッセージ性を含んだ作品がより一層増えました。

今現在も世間という目に見えないものに苦しんでいる人が多いからこそ、こういう作品が必要とされているのだと思います。



このミュージカルで好きなのが、新しい意中の人を見つけて結局恋愛の傷を癒やすのは恋愛だよね~パートナーがいればOKだよね~、というわけではなく、自分の意思で新しい世界に飛び込んでいくことで傷を過去のものに出来るという展開です。

今の自分の生き方、仕事、マイノリティ、人間関係、そしてもちろん恋愛に悩みを抱えている方は観劇後はすこし前向きに、足取り軽く家路につけると思います。

ウェディングドレスを脱ぎ力強く歌うジュリエットの姿はまさに圧巻、最後に役者さんたちの挨拶ではスタンディング・オベーションがおき割れんばかりの拍手が劇場に響いていました。

ストーリーもいいですが音楽もめちゃくちゃのれるので、公演中もう一回観に行きたいなあ~!