イギリスでご近所付き合いと日本のサブカルチャーの影響

今月末にはサマータイム終了なのでいよいよ暗くて寒い冬が来るイギリス。オックスフォードストリートにはイルミネーションの準備がされており、点灯を楽しみにしつつ早足で秋がすぎていきます。

色々書きたいことはあるものの、時間が過ぎるのは早い…。最近あったご近所さん関係+仕事での興味深い出来事を書いていこうと思います。

イギリスでご近所さん付き合い(The Joiners フィンチュリー)

私の住んでいるエリアはご近所付き合いが割とあります。

引っ越しした当初、我が家に挨拶(というかゴキブリが出たという情報共有)にきたカップルがいました。彼らは斜め上の階に住んでおり、「ゴキブリが出たら連絡するね!」という少しネガティブな理由で番号交換をしました。

外で会うたびに「Hi!」と声を掛け合うものの、特に深い話をするわけでもなく。幸いゴキブリも出ず…。

公園やスーパーマーケットで頻繁に会うし、いつかゆっくり話してみたいな〜と思い交換した番号に「よかったら一杯どうですか(Going for a pint)」とお誘いのメッセージを送ってみました。

トコトコ歩いてFinchley CentralにあるパブThe Joinersで飲むことに。

訛り的に東欧出身かな?と思いつつ出身地を尋ねると、一呼吸おいて「私たちはロシア人だ。戦争に巻き込まれる前に国外に出た」彼らはさらに「でも難民ではなく仕事を得てこの国に来たよ」と付け加えました。

彼らの話し方からして戦争が始まってから国を去ったロシア人たち、戦争に反対する立場であるけどロシア人というだけで色々大変な目に遭ってきたのを感じました。

「自分たちは難民ではない」というのも色々考えさせられる言葉です。イギリスはサウスポートの事件から発生した暴動を受けて「難民」「移民」に対して少しセンシティブになっています。

移民の私も「外国ルーツの人はちょっと気をつけないとなあ」という空気を感じる昨今のイギリス、それにプラスして政治的な理由、国の決断が自分にレッテルを貼る世の中で、レッテルを理由に殴り倒してくる人間がいるんだから辛いよなあ…。

ウクライナの陰惨な現状は多くのニュースで見聞きしましたが、ロシア人にとっても日常が崩壊し生活を手放さざる得なかった人々がたくさんいるんだと、ロシア・ウクライナ戦争の影響を実感しました。

この「日常が崩壊する」という話は、イギリスにいると時々耳にします。例えば、国の政治が宗教色に染まり自由が奪われてしまったり、帰国すれば徴兵されるから国外に留まりたいという人たちの話。

日本でゆるふわ生きていた自分にとって「国を去る」という選択をせざるを得ない人々の話を聞けるのはイギリスに住むことで得られた貴重な経験の一つ。でもそれを聞くたびに「どうしたらいいか」は答えが出ないままです。

そして話を進めていくと「僕はお祖父さんがチェチェン人」とか「私はタタール人の血が流れている」など「ロシア人」と一言にいってもいろいろなルーツが絡み合っているんだなあと、その上で戦争がもたらす分断がいかに虚しいか感じました。

私は個人的にロシア工芸文化には非常に影響を受けておりロシア出身だと聞いた時も「ロシア!!?kwsk!!」とオタクが滲み出し、そのあとは雑学くんに変貌し相手も「なんやこの日本人は…」状態になっていました。

日本にいた時にマトリョーシカを作って売っていた話、サンクトペテルブルクにいった時の話、友人が駐在でロシアに住んでた時の話、あとはロシア映画や小説など…相手は「正直、海外でここまでロシアのことを受け入れている人に出会ったことがなく驚いた。私たちの文化を受け入れてくれてありがとう」と喜んでおり、私もロシア人の知り合いができて嬉しかったです。

そして旦那さんはゲーム会社勤務、その会社は私が移住当初に応募して落ちた企業で「もし仕事探すならリファラル(推薦)するから言ってね!」と言われ、こうやってリファラル採用ができていくんだなあと思った夜でした。

The Joiners

日本食とサブカルチャーは国境を越える(Ai Sushi ノースフィンチュリー)

その後、件のロシア人カップルとまたディナーに行こうという話に。

MillHill Eastにあるメトロはどう?と聞いたところ「日本食が食べたい!」とリクエストがあり、日本食レストランへ行くことに。

イギリス人の家人と「生魚が苦手な人もいるしお寿司しか選択肢がないところは避けよう」と話し合い、North FinchleyにあるAi Sushiへ行くことにしました。

ここは何度か行ったことがあるのですが、日本の家庭的なメニューが揃ったおいしいレストランです(お寿司もあります)

Finchley Centralからトコトコ歩いて30分、もし地下鉄で行くならWoodside park駅が最寄りです。

レストランに到着し「お寿司とか生魚系は大丈夫?」と聞くと、彼らは「実は日本食が大好きで、ロシアを去る最終日も日本食を食べたんだよ!」と。それを聞いて「最終日くらいはロシア料理を食べなよ!」と笑いながら、日本食がこんなに浸透していることに驚きました。

そして、店員さんで我々のテーブル(隅っこ)にもよく気づいてくれる方がいて「もし違ったら申し訳ないんですけど日本人の方ですか…?」と聞くと日本人の方でちょっとだけお話しました。ロンドンで日本人の方に会うと嬉しいです。

メニューを選ぶときに全員真剣すぎて無言になり「別に最後の晩餐じゃないから、また来れるし適当に頼もう」と言っても「久々の日本食だから…!」とまた無言に。

「ロンドンでおいしい日本食を食べれる場所を探してたんだよーめっちゃおいしい!!」とお寿司やエビフライ、餃子にチャーハンなど…大喜びで日本食を楽しむ夜になりました。

そのあと私が重度のオタクであり、ロシア人カップルも「僕らもアニメが大好きだよ!」と言ってて、「ドラゴンボールとかセーラームーンとか?」と聞くと「シャーマンキングがすごく好き」と言われ、まさかイギリスでシャーマンキングの話が出るとは、めちゃくちゃ盛り上がりました。

「最近ロシアと日本を舞台にした面白いMangaあったよね、何て名前だっけ!?」「ゴールデンカムイ〜!!!」と、その後もアニメやゲームの話が続きました。

日本のサブカルチャー特に漫画とアニメの影響は凄まじく、大体私が日本人だというと「XXX(アニメや小説の名前)知ってる!?」と聞かれ、それで一気に仲が深まることが多いです。本当に日本サブカルチャーに大感謝、作家やクリエイターの作り上げた延長線上に海外で生きる日本人は支えられているなと思います。

最近同僚にも「コーヒーが冷めないうちに(Before the Coffee Gets Cold)」という小説がすごく良かった!是非読んでみて!と言われたり、東野圭吾の小説の中の一節にさ〜と言われたり…。

人々が作り上げてきた純粋な文化はこうやって人種・年代・宗教・国境を越えれるんだな、と思うと銃を向け合っている者同士も実は同じ小説を読んで涙を流した経験があるのかも、と考えるのでありました。

サン=テグジュペリを撃墜した兵士が「もし彼がサン=テグジュペリだと知っていたら撃たなかった、自分は彼の作品が好きだった」と語っていたのを思い出しつつ、楽しい夜は更けていきました。

そして、先週水曜日か木曜日に地下鉄の不具合で帰るのが遅くなり「もう今日はTRü Chickenで夕食でいいわ」とお互いTRü Chickenに行ったことなど色々共通点が見つかっておもしろかったです。近所に友達がいるって楽しい!

Ai Sushi

公式サイト

「静かなる退職」を実践して病む人を見る

最後に仕事で最近あった興味深いこと。

会社に「仕事はしたくないが給料アップ・昇進・評価はほしい」という社員がいます。

業種が違うのであまり気にしていなかったのですが、最近違う社員が「あれはQuiet Quitting(静かなる退職)だね」と言っており、初めて聞く言葉なのでググったところ新しい働き方の一つのようです。(似た言葉にLazy-Girl Jobというのもあるらしい)

今まであまり関わったことのないタイプなので注目してみると…

  • コスパ・タイパを重視しすぎて逆に効率が悪くなっている。
  • 努力はしたくないが評価は欲しいし、感動場面の中心にいたい。
  • 頑張ってる他の社員を「古い働き方だ」と嘲笑的に見てるけど、彼らがちゃんと評価を受ける(昇給や昇進)と自分は不当に評価されていると不機嫌になる。
  • 仕事を「できない理由」を常に探すことに注力し結果が出せない。
  • 承認欲求が強く、情報共有をせず情報を持っていることで優位性を保とうとする。
  • パッシブアグレッシブ(受動的攻撃行動)で嘘をつく
  • 有給申請せずにホリデーに行く(在宅勤務でバレないと思ったらバレた)

などなど、理想と現実の乖離が激しく「これは本人もしんどいだろうな…」と、この観察結果を見て私はなんとなく最近問題になっている闇バイトに通ずるものを感じました。

労働者が搾取され利用され捨てられ、努力が報われない社会を見てきた反動もあるのかな。有名大学院卒なので元々は努力できる方なんだと思いますが…。

ほぼ全員が技術職者の職場、趣味がそのまま職業になった人がほぼほぼなため彼女に寄り添ったり理解する人がおらず孤立感もあってパッシブアグレッシブも激しくなり、結果的に彼女自身のメンタルを蝕みつつあります。

他の同僚たちが仕事を楽しみながらどんどん昇給と昇進を重ねているのに焦燥感があること、でも「新しい働き方」に固執して中毒状態になっているのが目に見えてわかります。

「労働って苦痛で楽しくなくてみんな本当はしたくないよね!?」と思ってるけど、周りがそうじゃない、周りと比べてしまう、弱い部分を見せる強さがないからしんどいという負のループ。見てるだけで辛いぜ…。

話す分には良い人で、どうして仕事になると「労働=負け組」思考になるのか、もしかしたら家庭環境や何か過去に理由があるのか、ネットや友人の影響かもしれないなあ。

時々チャットで話しながらどこかで彼女がループから抜け出すキッカケが作れないか思案しつつ、今の所ポジティブな動きは作れておりません。

前述したロシア人が「上司が働かなくて困っている」と話し、在英日本人のブロガーさんたちが「同僚たちが本当に働かない」とため息をつき、ニュースでは「外国人が来るからイギリス人に仕事が回らない!」と息巻く人が映され、職場には労働をダサいと考え心を病む同僚がいる。

一昔前まで「サボり」という言葉で片付けられていたことが、今はブランディングを伴って「Quiet Quitting」「Lazy-Girl Job」という言葉で表現され一つの働き方や生き方と定義されている、「好きなことで、生きていく」ことができる世の中で、好きなことがなかったらどうやって生きていく?と色々考えさせられる出来事です。

疎外感を感じながら生きるのが辛いのは何となくわかるので、彼女にとって本当の意味で生きやすい道を探す手助けができたらいいなと思います。